転職活動では、年収、職種、勤務地、会社名など、比較しやすい条件にどうしても目が向きやすい。しかし、入社後の満足度を大きく左右するのは、求人票では見えにくい「会社の中」の状況であることが多い。この記事は、人生ラボ所長のハルが、これまでのキャリア相談・採用面接の経験を踏まえて整理する。転職を勧める記事ではなく、転職先の見方を整理するための記事である。
転職後の「こんなはずでは」は、なぜ起きるのか
条件面は数字で比較しやすい一方、組織文化や上司との相性は数字にならず、外からは見えにくい。転職を急ぐほど、こうした見えにくい部分を確認する工程が省略されやすくなる。現職への不満が強いときほど、次の会社を実態以上に良く見積もってしまうことも起きやすい。「こんなはずでは」というミスマッチの多くは、条件を比べる作業に時間を使いすぎて、会社の中の状況を確認する作業が後回しになった結果として起きると考えられる。
特に注意したい2つの転職パターン
給与だけに惹かれる
給与が上がること自体は、転職の理由として十分に成立する。ただし、なぜその給与水準なのか、期待される役割はどのようなものか、労働時間や評価基準、業績による変動、今後の昇給余地はどうかまで確認しないまま決めると、入社後に「割に合わない」と感じるギャップが生まれやすい。
現職から逃げることだけが目的になる
今の環境から離れること自体が必要な状況もあり、これを一律に良くないと言うつもりはない。ただし、「何から離れたいのか」と「次の会社で何を得たいのか」を分けて考えないまま動くと、離れることだけが目的化し、次の会社の中身への関心が薄くなりやすい。転職すべきか迷ったら見る、判断基準の整理法で紹介した、不満の原因を分解する視点は、このパターンを避ける手がかりになる。
転職先の「中の状況」を見る7つのポイント
- 中途入社者が活躍しやすいか:求人票、社員・元社員の口コミ、知人やOB・OGからの情報
- 配属予定部署の上司や意思決定の特徴:面接での質問、転職エージェント経由のヒアリング
- 評価制度の説明と、実際の運用のされ方:面接、社員・元社員の口コミ
- 退職理由として何が多いか:口コミ、知人やOB・OG
- 部署・職種・年代による口コミの違い:口コミサイト内での比較、面接での確認
- 会社が現在どの成長・変革段階にいるか:公式発表、IR・採用資料
- 自分が求める働き方と合っているか:面接、自己理解(キャリアの棚卸し、初めてのやり方も参考になる)
転職エージェント、複数使うべきかどうかの判断で触れたように、エージェントは求人票に出ない社内事情を持っていることも多く、これらの情報源のひとつとして活用できる。
口コミは「正しい・間違い」で見るものではない
口コミサイトの評判をどう扱うか迷う人は多い。一件の強い不満だけで会社全体を決めつけるのは早計だが、同じ種類の指摘が時期や立場の異なる複数の人から繰り返されているなら、確認しておきたい論点である可能性がある。火のないところに煙は立たないという考え方は参考になるが、大事なのは「煙があるかどうか」だけでなく、以下の4つの視点で見ることだ。
- 量:同様の指摘が複数あるか、一件だけの声か
- 発生源:どの部署・職種・立場から出ている声か
- 時期:最近の話か、数年前の話か
- 具体性:感情的な表現だけか、制度・行動・具体的な事例まで書かれているか
この4つで「どのくらい煙いのか」「どこから煙が出ているのか」「今も続いているのか」を確認すると、口コミを鵜呑みにも、無視にもせずに扱いやすくなる。
中の人の声を、面接で確認する質問に変える
口コミで気になった情報は、面接で確認する質問に変換できる。相手を問い詰める聞き方ではなく、相互理解を深める聞き方にするのがポイントである。面接の逆質問、何を聞けば評価が上がるかで紹介した逆質問の型も、この変換に応用しやすい。
- 「中途社員がなじみにくい」という声 → 「中途入社者が入社後に活躍するまで、どのような支援がありますか」
- 「評価が上司次第」という声 → 「評価基準と、評価が決まるまでのプロセスを教えてください」
- 「部門間の壁が強い」という声 → 「部門をまたぐ案件では、どのように意思決定していますか」
- 「残業が多い」という声 → 「繁忙期と通常期で、働き方はどう変わりますか」
- 「配属が不確実」という声 → 「入社時の配属と、その後の異動はどのように決まりますか」
中の人の声を確認できる選択肢
こうした情報を、口コミサイトや知人経由で断片的に集めるだけでなく、まとめて確認できるサービスを選択肢の一つとして持っておくのも一つの方法である。「ワンキャリア転職」は、求人条件だけでなく、実際の職場や選考に関する社員・元社員の声を転職判断の材料にしたい人向けのサービスとして知られている。広告では「中の人の声を聞いて受かる転職を実現する」と訴求されているが、人生ラボでは、内定獲得そのものよりも、入社後の納得感を高めるための情報収集手段の一つとして紹介したい。得られる情報を鵜呑みにせず、ここまで紹介した「煙の見方」や面接での質問と組み合わせて使うことをすすめる。特に転職を急いでいる人ほど、応募前にこうした形で会社の内側を確認する工程を一つ挟んでおきたい。
まとめ
年収や求人票の条件だけでは、転職先の実態は分からない。口コミは正誤で判断するのではなく、量・発生源・時期・具体性という4つの視点で確認するものだと考えられる。そこで得た情報は、面接での質問に変換することで、入社前の相互理解を深める材料になる。転職という大きな決断も、情報を集め、小さく確かめながら進めていきたい。
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所長の見解
転職は、内定を取ることがゴールではありません。入社後に、お互いが「この選択で良かった」と思えることが大切です。これまで2,000件を超えるキャリア相談・面接に関わってきましたが、転職後のミスマッチは、本人だけでなく、迎えた職場にも大きな負担になります。年収が上がることも、今の環境を離れることも、大切な転職理由になり得ます。ただ、その理由だけで次を決めるのではなく、転職先の中で自分がどう働くのかまで想像してほしいと思います。得られる情報がすべて正しいとは限りません。それでも、何も見ずに決めるより、複数の声を集めて「どのくらい煙いのか」を確かめる方が、良い判断に近づけます。